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2. 1型糖尿病の成因

なぜ、インスリンを出す細胞が破壊されるのでしょうか?これには免疫の異常が関係していると考えられています。免疫とは、体内に病原体や異物が侵入してきた時にそれを撃退し体を守るシステムです。このシステムの主役はリンパ球といわれる一連の免疫細胞です。この免疫細胞のうちTリンパ球といわれる細胞は、ちゃんと病原体/異物と自分自身を構成している細胞を見分けて、見知らぬものが侵入してきたら速やかにキラー細胞(攻撃型細胞)に指令を送り、直接、異物を破壊したり、また抗体を介して侵入者を撃退することにより生体を守っています。このように生体には自己認識機構(自己と非自己を識別するメカニズム)が存在します。それを自己免疫寛容といいます。このメカニズムで重要な役割をしているのが主要組織適合抗原(MHC)=HLA(ヒト白血球抗原)という細胞表面に存在する抗原(目印)ですが、このHLA近傍の遺伝子の異常ががこの免疫寛容の破綻に関与しており、これにより自己の免疫細胞の膵B細胞に対する攻撃がはじまり、最後には破壊されてしまうわけです。
これはNODマウスというインスリン依存型糖尿病のモデル動物のすい臓の顕微鏡写真です。インスリンを分泌するランゲルハンス島(膵ラ氏島)のB細胞の周りにリンパ球を中心とする免疫細胞が取り囲み攻撃をしているものです。ヒトのIDDMでも同様のことが起こっていると考えられています。
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一部の患者さんではある種のウイルスの感染がこの免疫異常のきっかけになり突然発症すると考えられます。しかし、多くの患者さんではこの破壊は糖尿病が発症するずっと以前から始まり、ゆっくりと確実に破壊が進んでいき、糖尿病にいたると考えられています。その証拠として糖尿病が発症する以前から膵B細胞やインスリンに対する自己抗体(抗GAD抗体、インスリン抗体など)が認められることが明らかになっています。
この遺伝子は、HLA(ヒト組織適合抗原)遺伝子近傍に存在することがわかっていますが正確にどんな遺伝子であるかはまだ研究中です。また、糖尿病の遺伝子は一つだけではなく数個の遺伝子がかかわっていると推測されています。この10年以内にはこれらの遺伝子も明らかになるでしょう。