ブログ

2014年10月7日[カテゴリ]:

欧州糖尿病学会で発表してきました

日本臨床内科医会で全国調査をした高齢者患者の治療実態、低血糖の実態についてオーストリア、ウイーンで開催された第50回欧州糖尿病学会で発表した参りました。

欧州域内だけでなく米国をはじめ世界各国から18000人以上が参加、もちろん日本からも多くの先生方が参加されておられました。 今回発表したポスターには多くの先生方に見に来ていただき日本における高齢者糖尿病の治療実態を紹介することができ活発にディスカッションをすることができました。 

EASD3 EASD2 EASD1

学会の合間に郊外のシェーンブルン宮殿に行きました

EASD5

 

夜はモーツアルトのオペラコンサートを楽しみました。

 

 

EASD4

 Survey of Outpaitents with type 2 Diabetes among Older Adults in Japan \b0The 50th EASD Annual Meeting, Poster/Vienna, Austria, 15-19 September 2014

1)高齢者糖尿病の治療薬としてはDPP4阻害薬が一番多く使われており、低血糖、老年症候群への影響などを考えると第一選択薬としても意義も大きいと考えられる。 

2)主治医診断による低血糖の頻度よりも患者申告の低血糖の頻度が高く、さらに低血糖を示唆する自覚症状を有する者が多かったことから、主治医や患者自身が認識している以上に低血糖が潜在する、いわゆる「かくれ低血糖」が存在する可能性が示唆された。 

3)低血糖に対する認知度は高齢者でも十分にあるが、低血糖対策としてブドウ糖を携行していないなど、今後さらに低血糖の啓発を進めていく必要があると考えられた。 

4)高齢者糖尿病に対しては、より注意深い糖尿病治療(ケア)と低血糖を察知するための有効な測定ツールが必要と思われる

 

投稿者 by Mog-admin

2014年7月5日

低血糖に注意しましょう

今 運転中に低血糖となり意識が混濁し重大な交通事故を起こした事件が大きく取り上げられています。
 低血糖症とは血糖値がさがる病態で様々なことが原因で起こることがありますが、一番多く、重症になりやすいのが糖尿病の治療の際に出現する医原性低血糖です。つまり糖尿病の薬により引き起こされる低血糖です。 ただ糖尿病治療薬のすべてが低血糖を起こすわけではありません。 最近発売されたお薬は低血糖を起こさず血糖値をさげるものが主流になっています。 低血糖を起こしやすいのはまずインスリン注射です。インスリンを使わないと血糖値をうまくコントロール出来ない患者さんも多くおられます。
また、飲み薬ではSU薬(スルホニルウレア薬)、商品名 オイグルコン ダオニール アマリール グリミクロン です。 これらの薬は膵臓のインスリン分泌細胞を刺激してインスリンを出す薬です。 これを飲むと食事をするしないにかかわらずインスリンが出ますので、薬を飲んで食事をしないということをすると血糖値が下がりすぎます それが低血糖です。 朝の飲むSU薬はだいだい半日は効いていますので、朝、昼ご飯を適切な時間に適量の食事を食べることを大前提にお薬の量を決めているので、食事の量が少なかったり、食べなかったり、またいつもよりよく運動した場合などは血糖値が下がり低血糖を起こす可能性があります。 注意しましょう
まずご自分の飲んでいる薬が低血糖を起こしやすい薬かどうか確認するようにしましょう。 薬の種類は患者さんごとにその患者さんの病態にあったものを主治医は選んでいます。 日本人はインスリンの分泌力が弱い方が多いのでSU薬が必要な方も多いので自分でかってに中断することはせずまず主治医に相談してください。
この低血糖について以前医学系雑誌に投稿した一文を再掲いたします。
低血糖とは: 血糖値の恒常性は血糖を上げる力(肝臓からの糖放出、消化管から糖流入)と下げる力(筋肉・脂肪などの末梢組織や肝臓への糖の流入)が巧妙にバランスをとり、健常人では常に血糖値は70〜110mg/dlに保たれている。これがインスリンや血糖降下薬などにより下方に崩れた場合が低血糖である。血糖値が下がると表1のような一連の低血糖反応が起こる。54mg/dl以下になると脳においてブドウ糖欠乏に起因する高次皮質機能障害が出始める。それを防止するために60mg/dlあたりからインスリン拮抗ホルモンの分泌が、グルカゴン、カテコラミン、そしてコルチゾールやGHの順で始まる。この低血糖を回復させようと分泌されるホルモンのうちカテコラミンによる交感神経症状がいわゆる低血糖症状である。さらに血糖が低下すると脳におけるブドウ糖欠乏に起因する中枢神経症状の傾眠、昏睡が出現する。低血糖初期にでる交感神経症状は危険を知らせる信号であり、これを見逃さないようにする。

低血糖の臨床症状: 一般的な低血糖症状を表2にまとめた。本症例の昼前に出現した症状は典型的な低血糖症状である。しかし低血糖の症状はさまざまであり、筆者が経験してものでは「腹部がかゆくなる」などおよそ低血糖と思えない症状もあるので、注意深い問診が必要である。本症例の夕方に起こった「視野の狭くなる感じ」という症状も低血糖である可能性が高い。 実際、同様の症状が再度出現した際にブドウ糖を摂取したところ症状は速やかに改善している。また夕食前にインスリンやSU薬を投与している場合は、夜間睡眠中の低血糖にも注意が必要である。起床時の頭痛、発汗のあと、倦怠感などを訴えた場合は夜間低血糖の存在を疑う必要がある。
低血糖診断時の注意点: 高血糖症例では前述のインスリン拮抗ホルモンの分泌が78 ± 5 mg/DLあたりで始まるという。また血糖値が急激に低下した場合も交感神経症状がでやすい。いずれにしてもそのような場合は低血糖様の症状があっても実際は低血糖ではなく、血糖コントロールの改善により分泌の閾値も正常化する。 また、糖尿病罹病期間が長くなり自律神経障害が進行すると消失しいわゆる無自覚性低血糖となり突然意識障害が出現するなど危険である。罹病期間の長い1型糖尿病患者によく見られるが、2型糖尿病でも高齢者や罹病期間が長く糖尿病性自律神経障害を合併しているケースでは注意を要する。本症例にも軽い糖尿病性神経障害があるが、今後、心電図などでRR間隔のCVなど自律神経機能を定期的にチェックしておくべきである

食事のタイミングと運動・アルコールと低血糖
空腹時の運動は低血糖のリスクであり、運動中または運動直後の低血糖というのはしばしば遭遇する。その場合はあらかじめ運動前に糖質を補食する、インスリン量を減量するなどする必要がある。またマラソンなど運動強度が高く長時間にわたり運動する場合は翌日などにも気を付ける必要がある。これは肝・筋肉のグリコーゲンが消費されその回復に24時間かかるので、運動の翌日に低血糖が起こる可能性がある。 アルコールは肝臓での糖新生を抑制するので、数時間の絶食後には正常では糖新生が促進されるが、飲酒のあとではこれが起こらず低血糖が遷延することがある。またインスリン感受性増強作用も報告されている。 このようなことから夕食時に大量飲酒をすると翌朝に低血糖が起こる場合もある。 この場合は量依存的であり1-2杯なら影響ない 運動と飲酒が重なるとリスクも増加する。典型的なケースはアルコールを飲みながらの徹夜のダンスパーティなどは危険である。さらにアルコールは低血糖症状を認識しにくくし、インスリン拮抗ホルモン分泌も低下させ、警告症状なしの重症低血糖が発現するリスクがある、

どのような患者で低血糖により注意すべきか?
低血糖性昏睡の危険因子としては年齢 腎障害、 食事摂取の減少、感染症などが上げられる(Haim  Ben-Ami Arch Interm Med 1999 159 281-284)。 入院となるような重症低血糖は70歳以上の高齢者に圧倒的に多く、治療法ではSU薬治療が半数以上とインスリン治療より多数を占めている。特に作用時間の長い強力なSU薬服用患者がめだつ。 SU薬のなかでもグリメピリドはグリベンクラミドに比べ重症低血糖は少ない。またインスリン治療患者ではプレミックス製剤2回注射やNPH中間型1回などに比べ超速効型3回注射や持効型インスリンアナログ+経口薬の方が低血糖は少なくよりよい血糖コントロールが得られるという。また、表3のように抗インスリンホルモンの分泌不全が存在する場合には低血糖が起きやすい また、糖尿病性自律神経障害などで胃排出時間の延長している症例や腸疾患、食欲不振、胃不全麻痺の合併などの血中への糖の流入タイミングがずれやすい疾患や肝硬変のように肝臓での糖放出ができない場合も低血糖が起こりやすい。

低血糖のリスクを増加させる薬剤
本例でも処方されていたARBやACEIはインスリン感受性を改善し新規糖尿病の発症を減らすとのエビデンスが報告されており、血糖コントロールが良好な症例に処方する低血糖のリスクが高まるということも考えられる。しかしSU薬とACEIとの併用では低血糖は増加しなかったという報告もあり議論のあるところである。降圧剤といえば以前よりβ遮断薬は低血糖症状の自覚を低下させると言われ糖尿病での使用は避けられてきたが、実際にはそのエビデンスは明らかではなく、心血管疾患を有する糖尿病患者でβ遮断薬を避ける必要はないと思われる。抗不整脈薬のシベンゾリンはインスリン分泌刺激作用が報告されている。その他にも表4のように実に多くの薬剤で低血糖が報告されている。 特に問題なのは短期間だけ使う抗生物質やNSAIDなどであろう、糖尿病では禁忌になっているものもある。処方の際は気を付けたい、また自分が処方していなくても、他院で知らない間に投薬されていたりするケースがあるので常に他院での投薬については把握しておく必要があろう。本症例でも耳鼻科からの処方を確認したが今回は問題なかった。

TIPS 1 低血糖に対する患者への指導と処置
①自分で経口摂取ができる場合
通常の低血糖症状では、20g程度のブドウ糖の経口摂取で安全に回復する。個人差はあるが1gのブドウ糖で血糖は約5mg/dl上昇することが知られている。その後、食前であれば早めに食事をとる、また1時間以内に食事ができなければブドウ糖をもう同量を追加、または40gの炭水化物を摂取するのがよい。 スティックの砂糖などを携行するのもよいが、αGI薬の服用患者はブドウ糖を持ち歩かせる。ブドウ糖キャンディや、ゼリー状のブドウ糖などが市販されているのでこれらを利用するのもよい。 よく低血糖時にチョコレートを食べる方がいるが、チョコレートの脂肪がブドウ糖の吸収を遅延させる可能性があり避ける方がよい。

TIPS 2 低血糖に対する患者への指導と処置
②意識のない場合など経口摂取ができない場合
昔からよくやる50%ブドウ糖注射は避け10%ブドウ糖の点滴静注などで対応する。 血管外に高濃度のブドウ糖が漏れた場合には組織壊死が起り、手の切断にいたったという事例が報告されている。 グルカゴン筋注は、注射後10分以内に効果が出現、ブドウ糖静注と同じ早さである。 患者にグルカゴンを渡しておき、低血糖時の筋注を家族を含め指導しておくのもよい。 ただしグルカゴンは肝臓でのグルコーゲン分解によるので、長期間の絶食、低栄養、アルコールでの低血糖などでは効果が出ない場合がある。経口摂取が可能になったら20gのブドウ糖を経口で、その後40gの炭水化物を摂取するとよい。

表1 血糖値と低血糖反応
80 インスリン分泌ストップ
70 インスリン拮抗ホルモン分泌スタート
まずはグルカゴン、カテコラミン、 コルチゾールとGH
60 交感神経刺激症状
50 中枢神経刺激症状
脳ブドウ糖欠乏と認知障害
40 傾眠
30 昏睡
20 痙攣
10 脳障害

表2 成人の分析結果による急性低血糖の症状
交感神経作用      神経性           その他
振戦               めまい           空腹感
発汗               錯乱            脱力感
不安               疲労感           霧視
悪心               不明瞭言語
ほてり             集中力低下
動悸               嗜眠傾向
悪寒
(Deary IJ et al  Diabetologia 1993 36 771-777)

表3 低血糖のリスクを増加させる疾患
コルチゾール、GH、甲状腺ホルモンの欠乏
下垂体機能不全、GH単独欠損症、ACTH単独欠損症、副腎不全
腎不全、肝不全、敗血症、うっ血性心不全、神経性食思不振症、
腸疾患、食欲不振、胃不全麻痺、糖尿病神経障害

表4
薬剤一覧 抗不整脈 シベンゾリン、ジソピラミド、リドカイン
降圧薬 ARB ACE阻害薬、β遮断薬 フロセミド、
非ステロイド系炎症薬 アスピリン、インドメサシン
消化性潰瘍治療薬 シメチジン ラニチジン
抗ヒスタミン薬 ジフェンヒドラミン
気管支拡張薬 フェノテロール、テルブタリン
高脂血症薬 コレスチミド
抗てんかん薬 フェニトイン
子宮用薬 リトドリン
高血栓薬 ワーファリン
抗菌薬 ガチフロキサシン エチオナミド シプロキサン エノキサシン、塩酸ロメフロキサシン ST合剤 など

ジョスリン糖尿病学 第2版 編 C・ロナルド・カーンメディカルサイエンスインターナショナル pp 751-767 1995
ジョスリン糖尿病学 第2版 編 C・ロナルド・カーンメディカルサイエンスインターナショナル pp 1271-1318 1995

インスリン増加(単独で低血糖を起す)
インスリン製剤
スルフォニルウレア(SU)薬
ジソピラミド(抗不整脈薬)
キニーネ(抗マラリア薬)・キニジン(抗不整脈薬)
ペンタミジン
リトドリン(子宮用薬)
イソニアジド(抗結核薬)<インスリンクリアランスを低下>
クロロキン
インスリン感受性亢進(単独ではめったに低血糖を起さないがSU薬やインスリンとの併用に注意)
チアゾリジン系薬剤
ACE阻害薬(降圧薬)
ARB(降圧薬)
コレスチミド(高脂血症薬)
β遮断薬
肝での糖放出低下
アルコール
自己免疫機序
ヒドララジン
プロカインアミド
イソニアジド
インターフェロンα
メチマゾール(SH基を有する薬物)
ペニシラミン(SH基を有する薬物)
カプトプリル(SH基を有する薬物)
その他 機序不明<ごくまれに報告されている多数使用されており因果関係はかならずしもあきらかでないものもある>
スルホンアミド
サリチル酸塩
ワーファリン(抗凝固薬)
インドメサシン(抗消炎薬)
フェニルブタゾン(抗消炎薬)
コルヒチン(抗消炎薬)
ハロペリドール(抗精神病薬)
クロルプロマジン(抗精神病薬)
ケトコナゾール
セレギリン(抗パーキンソン薬)
フェニトイン(抗てんかん薬)
抗菌薬 ガチフロキサシン エチオナミド シプロキサン エノキサシン、塩酸ロメフロキサシン ST合剤
消化性潰瘍治療薬 シメチジン ラニチジン
気管支拡張薬 フェノテロール、テルブタリン

投稿者 by Mog-admin

2014年6月30日[カテゴリ]:

楽しく食べて美しく健康に! 講演詳細

2月行われた 第15回 大阪府内科医会市民講座 女性と医師が語り合う会で講演した「楽しく食べて美しく健康に!」の講演記録ができました。

 詳細はこちらです

投稿者 by Mog-admin

2014年5月25日[カテゴリ]:

第57回日本糖尿病学会総会(大阪)にて演題発表しました

5月22日-24日 大阪国際会議場を中心に第57回日本糖尿病学会総会が開催され13000人を超える糖尿病専門医、糖尿病療養指導士、栄養士、看護師、臨床検査技師などなど糖尿病診療に携わる方々が参加されました。 当院からも院長の私と管理栄養士の一柳さんが演題発表をいたしました。

2014JDS01

演題名: 食事摂取量や運動エネルギー消費量と血糖コントロールとの関係の「見える化」ができる糖尿病療養支援システムの試み 【目的】良好な血糖コントロールの維持には適度な運動や食習慣の継続が不可欠であるが、これを達成するには患者の生活習慣改善へのモチベーションを保つことが重要である。患者のモチベーションを高める手法として、患者が実践した食事や運動などが血糖コントロールにどのように反映されるか直感的に患者自身が理解できる、いわゆる「見える化」するシステムが望ましいと考えられる。そこで今回、新たに開発された血糖自己測定(SMBG)機器と歩行強度計を用いたICTを活用した糖尿病療養支援システムについて実証実験に参加した患者の視点でその有用性を評価した。 【対象と方法】 外来通院中の2型糖尿病患者(46歳〜70歳)16名を対象とし、血糖自己測定機器と3Dセンサーを内蔵した歩行強度計(テルモ社)を貸与し、日々の血糖値を測定と歩数,歩行強度の記録を行った。患者の受診毎に院内に設置したNFC通信機能とタッチパネルを有した療養支援システム用PCに、血糖測定器と歩行強度計を端末にかざし、血糖値・歩数などのデータをPCに取り込み、さらに画面をタッチしながら患者自身で食事に関する質問に回答することで記憶法に基づく食事摂取状況が計算され食事の摂取カロリーや栄養バランス、嗜好品や塩分の量などの分析結果が即時に印刷、また取り込んだHbA1cや血糖自己測定の結果と食事量摂取量や歩数,歩行強度の集計結果も経時的なグラフとして印刷される。これを用いて診察時に療養指導をおこなった。このシステムで3ヶ月以上指導を起こった患者にアンケートとヒアリングを施行した。 【結果】本システムを使用して生活の中で気をつけるようになったことについて問うと、糖質の摂取には88%が気をつけるようになったと回答、脂質69%、総カロリー62%、間食60%であった。一方で、果物27%や外食27%とこれらについてはあまり気をつけていないようであった。血糖自己測定については全員が測定することに食事、運動の効果を自覚するために意義があると回答、85%が1日の血糖値の変動を理解できたと回答した。また今回参加することで17%が食事内容を改善できたとし、58%が食事の問題点を見直すきっかけになったと回答、81%が今後とも継続していきたいと回答した。 【結語】血糖自己測定器及び歩行強度計と支援システムを活用し、血糖値・歩数・中強度の歩行時間と食習慣を「見える化」することは、患者の血糖変動理解度を向上させ、食習慣改善に有用であることが示唆された。今後は症例数を増やし、更なる本支援の有用性検証を継続する   (抄録原稿より)

2014JDS02

[目的] 高齢者では一般に非典型的な症状を呈することが多く,低血糖時もそのために対応が遅れ重症化する可能性が高いと考えられる。 日本臨床内科医会では高齢糖尿病患者における低血糖の頻度,またその症状や低血糖の認知度についてアンケート調査を施行した。 [対象と方法] 外来通院中の65歳以上の糖尿病患者(n=14255 、65-74歳n= 7740、75-84歳n=5509、85歳以上n=956)を対象に、調査時点から過去1ヶ月以内に典型的な低血糖症状に加え老年症候群で認められる症状を含めた28項目について患者自身にチェックシートに記入してもらい、同時に主治医に対しその患者の過去1ヶ月間の低血糖発症の有無を調査した。さらに患者の低血糖に対する認知度等についても調査した。 [結果] 低血糖(+)群では低血糖(−)群に比し、冷汗(30.4%vs3.8% P<0.001), からだがだるい(32.8% vs 15.1% *)、ふらつき(32.4% vs 13.2% *)、ぼーっとした感じ(24.2% vs 7.6% *)、眼のちらつき(24.8%vs12.0% *)、強い空腹感(19.6% vs 4.7% *)、空腹時のいらいら(13.0%vs6.1% *)、冷感(13.3%vs6.1% *)、悪心(5.6%vs2.0%*)、異常な食欲(7.3%vs3.2% *)が有意(* p<0.001)に多かった。また年齢層別にみると85歳以上の超高齢者では冷汗、空腹時のイライラ、動悸等の交感神経症状の頻度が低く、からだがだるい、ぼーっとした感じといった漠然した症状が高値であった。さらに多変量解析などを用いて、どの症状の組合せが低血糖を予測しうるかなど詳細な解析を行う予定である。 一方、低血糖に対しては全体として71.5%が知っており、SUまたはインスリン使用患者では78.8%と未使用患者の62.9%より高値であった。また低血糖に対する対処法については75%が知っていると答え、SUまたはインスリン使用患者では特に高値であった。しかし認知度が高いにも関わらず実際にブドウ糖を常に携行している患者は28.5%に留まり、85歳以上では21.7%とさらに少なかった。 [結語]高齢糖尿病患者では低血糖の症状として、だるさ、ふらつき、眼のちらつきなど典型的な交感神経症状以外の症状が多く認められ、特に85歳以上ではその傾向が強かった。診察時にこのような訴えがある場合は低血糖が潜在している可能性も考慮すべきであると考えられた。また低血糖に対する認知度は高齢者でも十分にあるが、ブドウ糖の携行など対策が実践していない場合も多く、今後さらに啓発を進めていく必要があると考えられた。 (抄録原稿より)

投稿者 by 院長