肥満の最新情報

肥満の分子遺伝学について

最近 多くの肥満、脂肪蓄積、エネルギー代謝に関連する遺伝子が見つかっている。それら遺伝子の変異が肥満の原因である可能性も明らかになりつつある。また治療薬に結びつくものではないが、これらの遺伝子変異は爪の遺伝子などをもちいて簡単にわかるようになってきた。 自分に遺伝子変異の有無をチェックすることによりより効率的なダイエット戦略を立てることも可能な時代となりつつある。

β3-アドレナリン受容体(β3-AR)遺伝子

β3-ARはカテコラミンによる白色脂肪細胞での脂肪分解と褐色脂肪細胞でのエネルギー産生に不可欠なものである。この遺伝子に異常がある人はアメリカインディアンを対象とした研究では内臓脂肪が蓄積しやすく、インスリン抵抗性が増強、糖尿病になりやすいという。日本人にもこの変異は34%に認められ、この異常のある人は1日あたり安静時代謝量が1日あたり200kcalも低下しているという。 省エネ体質ともいえるが食事を減らしても痩せにくい体質であるともいえる。

β2-アドレナリン受容体(β2-AR)遺伝子

β2-ARは心臓の心筋細胞などに多く存在するが脂肪細胞にもある。この遺伝子の変異をもつ日本人は16%ほどであるが、特に肥満女性で、この遺伝子の変異をもつ人は食事・運動療法をすると安静時代謝量が300kcalほど変異のない人より亢進している。 すなわちこの遺伝子変異をもつ人は痩せやすいということになる。

脱共役たんぱく質(UCP)遺伝子

このたんぱく質はミトコンドリアに存在し褐色細胞での熱産生に深く関与していると考えられている。 この遺伝子の変異があると脂肪蓄積やBMIの増加と関連が認められている。 この変異をもつ肥満者は1日あたり100kcalの安静時代謝量が低く、食事療法に反応しにくいと考えられる。

PPARγ遺伝子

PPARγ遺伝子は核内受容体で脂肪細胞の分化に関与している。脂肪細胞を分化させインスリン感受性を高めるアデポネクチンの分泌などを通じてインスリン感受性を高める この遺伝子に変異があると白人ではBMI低下、インスリン感受性高値などがあり安静時代謝量が高く痩せやすい傾向があるという。

白色脂肪組織と褐色脂肪組織

脂肪細胞には白と褐色の2種類があります。体の脂肪組織の大半は白色脂肪組織で、細胞内にエネルギーを中性脂肪として貯蔵しています。一方、褐色脂肪細胞は、血液中の遊離脂肪酸を取り込み熱を産生、熱放射することでエネルギーを放散します。
交感神経の終末から放出されるノルアドレナリンというホルモンは脂肪細胞表面にあるβ3-レセプターに結合し熱産生量を増加させます。最近、肥満者ではこの β3-アドレナリンレセプター(AR)の異常が見つかっています。すなわち、肥満者では褐色細胞での熱産生が十分でなくエネルギーを消費しにくため痩せないと考えられます。 現在、このβ3-ARを刺激する薬剤を開発中とのことです。これができれば体のエネルギー消費が上昇し易くなり、肥満改善に効果があると思われます。
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レプチン

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最近発見された肥満遺伝子産物のレプチンは脂肪細胞から分泌され、食欲の抑制やエネルギー代謝の増大を介して体脂肪量の調節、飢餓への適応をつかさどるホルモンです。
このレプチンの存在は以前から遺伝的肥満マウスであるob/obマウスとdb/dbマウスを用いた実験からいわれていました。
どんな実験かというと、まず、肥満マウス(db/db )と正常マウスの血管をつなげて双方の血液が行き交うようにしてやると正常のマウスはものを食べなくなりやせ細って最後には死んでしまいました。このことからdb/dbマウスには痩せる物質が多く存在することがわかります。(後にこの物質はレプチンと名付けられました)なのにこのマウスは肥満しているわけです。この理由としては、db/dbマウスはこのレプチンに対して抵抗性があり、そのために代償性にレプチン分泌が亢進していたことが考えられます。ですから正常のマウスはレプチンが作用しすぎて死んでしまったのです。
もうひとつの実験はob/obマウスを用いたものです。同じように実験したところ、今度は肥満マウスが痩せてきだし正常の状態になりました。一方、正常マウスにはなんら変化はありませんでした。これはob/obマウスのレプチンが正常に働いていないか欠如しているため肥満していたと考えられます。
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以上のことをまとめると下図のようになります。
正常では、食べてエネルギーが過多になり、脂肪細胞へのエネルギー貯蔵が増加し、脂肪細胞が肥大してくるとレプチンが分泌され、脳の視床下部にある摂食中枢に作用し食欲を抑制する一方、褐色脂肪組織にも作用しエネルギー代謝の増大を促すと考えられます。
一方、肥満者では、視床下部のレプチンが作用する部位であるレプチンレセプターの異常、また、レプチンそのものが異常ででレプチンが増加しても食欲の抑制が効かなく、肥満になっていくという仮説が考えられます。
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実際、レプチンの遺伝子が発見され、そこから合成レプチンを作り、肥満マウス(ob/ob)に注射したところ、エネルギー消費、熱産生の増加、食事摂取量の低下により体重が減少しました。
しかし、残念ながら人間の肥満者における血液中のレプチン濃度については高いという報告や低いという報告もあり、レプチンの役割はまだ不明です。