1型糖尿病の病因

経口糖尿病薬6) DPP-4阻害薬

インクレチン作用を増強する薬剤 
静脈に直接ブドウ糖を投与するより、おなじブドウ糖の量でも経口的に負荷(つまり飲んだとき)したときにインスリン分泌が多いという現象は昔から知られていました。これは腸内に栄養(ブドウ糖など)が入ってくると小腸からインクレチンというホルモンが(GLP−1、GIP)分泌されすい臓のインスリン分泌細胞(B細胞)を刺激することによります。 食べることにより入ってくる糖の刺激に加えてインスリン分泌を増強するわけです。通常はこのインクレチンはDPP4という酵素により速やかに(2分程度)分解されてしまいます。 糖尿病患者さんではこのインクレチン効果が低下していることが知られています。 特にGLP−1の分泌が低下しています。またGLP−1は血糖値を上昇されるすい臓から分泌されるグルカゴンというホルモンの分泌も抑える作用があり、糖尿病ではこのグルカゴンが相対的に増えていることも血糖値があがるひとつの要因です。DPP4阻害薬はGLP-1を分解を阻止することによりGLP-1の効果を増強し、食後インスリン分泌を増強、グルカゴン分泌を抑制することで血糖の上昇を抑えます。
その性格上 1日1回の服用で効果があり、食事を食べた時だけ、血糖値が高いときだけ インスリンが出やすくなるので低血糖が少ないのが特徴です。
今までのSU薬と違い、食事をして血糖値が上がるときにだけインスリン分泌を増強するため、低血糖が出にくいのが大きな特徴です。車に例えると、SU薬は、朝服用してインスリン分泌のアクセルをいったん踏むと半日ほど踏みつづけることになるのに対し、DPP―4阻害薬は、食事をしたときだけアクセルを踏むという感覚です。
シタグリプチン(商品名はグラクティブとジャヌビア)ビルダグリプチン(エクア), アログリプチン(ネシーナ),テネグリプチン(テネリア),トラゼンタ,アナグリプチン(スイニー),サクサグリプチン(オングリザ)

1.1型糖尿病とは?

このタイプの糖尿病は、昔、若年型糖尿病といわれていた糖尿病で突然発病するのが特徴とされていました。すい臓のインスリンを分泌する細胞が破壊された結果、インスリンが完全に欠乏してしまう病気です。インスリンが完全に欠乏すると生物は食べることで得られたエネルギー(ブドウ糖)を体内の細胞で利用できなくなり、急速に衰弱、死に至ります。インスリンを補うことが唯一の治療法であり、これがインスリン依存型といわれるゆえんです

2. 1型糖尿病の成因

なぜ、インスリンを出す細胞が破壊されるのでしょうか?これには免疫の異常が関係していると考えられています。免疫とは、体内に病原体や異物が侵入してきた時にそれを撃退し体を守るシステムです。このシステムの主役はリンパ球といわれる一連の免疫細胞です。この免疫細胞のうちTリンパ球といわれる細胞は、ちゃんと病原体/異物と自分自身を構成している細胞を見分けて、見知らぬものが侵入してきたら速やかにキラー細胞(攻撃型細胞)に指令を送り、直接、異物を破壊したり、また抗体を介して侵入者を撃退することにより生体を守っています。このように生体には自己認識機構(自己と非自己を識別するメカニズム)が存在します。それを自己免疫寛容といいます。このメカニズムで重要な役割をしているのが主要組織適合抗原(MHC)=HLA(ヒト白血球抗原)という細胞表面に存在する抗原(目印)ですが、このHLA近傍の遺伝子の異常ががこの免疫寛容の破綻に関与しており、これにより自己の免疫細胞の膵B細胞に対する攻撃がはじまり、最後には破壊されてしまうわけです。
これはNODマウスというインスリン依存型糖尿病のモデル動物のすい臓の顕微鏡写真です。インスリンを分泌するランゲルハンス島(膵ラ氏島)のB細胞の周りにリンパ球を中心とする免疫細胞が取り囲み攻撃をしているものです。ヒトのIDDMでも同様のことが起こっていると考えられています。
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一部の患者さんではある種のウイルスの感染がこの免疫異常のきっかけになり突然発症すると考えられます。しかし、多くの患者さんではこの破壊は糖尿病が発症するずっと以前から始まり、ゆっくりと確実に破壊が進んでいき、糖尿病にいたると考えられています。その証拠として糖尿病が発症する以前から膵B細胞やインスリンに対する自己抗体(抗GAD抗体、インスリン抗体など)が認められることが明らかになっています。
この遺伝子は、HLA(ヒト組織適合抗原)遺伝子近傍に存在することがわかっていますが正確にどんな遺伝子であるかはまだ研究中です。また、糖尿病の遺伝子は一つだけではなく数個の遺伝子がかかわっていると推測されています。この10年以内にはこれらの遺伝子も明らかになるでしょう。