2型糖尿病の病因

1.インスリン分泌低下と抵抗性について

入門編で示したように2型糖尿病が発症すなわち、末梢細胞への糖の取込みが減少し血糖があがる原因にはインスリンの量的不足(膵B細胞からの分泌量の低下)と糖を取込む側の細胞におけるインスリン作用の減弱(インスリン抵抗性)のいずれか、また2者の下図のような関係があります。
インスリン抵抗性がなくてもインスリン分泌が減り量的不足を生じても血糖が上がります(糖尿病状態:左)、一方、インスリン抵抗性が増大するとそれを補うようにインスリン分泌が過剰になります(高インスリン血症)。しかし、インスリン過剰分泌が限界に達し分泌が低下してくると相対的なインスリン不足状態に陥り血糖値が上がり始めます(糖尿病状態:右)
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2.インスリン分泌障害について

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糖尿病の初期にはまず追加分泌が障害され、食後血糖が上昇、その後に基礎分泌量も低下し空腹時血糖が上昇してきます。
インスリン分泌には2種類あります。まず、食事の際に、糖が消化吸収され血管内に流入してくると、膵臓のB細胞からインスリンが速やかに分泌されます。 これにより血液中の糖は速やかに筋肉、脂肪細胞に取り込まれエネルギーとして燃焼し、または貯蔵に回されます。これをインスリンの追加分泌といいます。この追加分泌が障害されると食後の血糖値が上昇します。この追加分泌は糖尿病のごく初期から障害されると考えられ、糖尿病はまず食後高血糖から始まると考えられます。 一方、インスリンは空腹時にもごく少量が持続的に分泌されておりこれを基礎分泌といい、主に肝臓でのグリコーゲン分解→ブドウ糖新生による肝臓からのブドウ糖の放出をコントロール(抑制的に)しています。この基礎分泌が障害されると肝臓からの糖放出が抑えられずに空腹時の(食前)血糖が上昇します。
健常人のインスリン分泌パターン:ブドウ糖を静脈内投与した際のインスリンの追加分泌を詳しく見ると図のように急峻なピークとそれに続くなだらかな山の2相性の分泌パターンを示します。それぞれ第1相と第2相の分泌と呼びます。糖尿病の場合にはまず図の様に第1相の分泌が消失するのが特徴です。
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3.インスリン分泌のメカニズム

ここではまずインスリン分泌がどのように起こるのか、インスリンが標的細胞(肝、筋肉細胞)にてどのように作用するのかを、そしてそれらの異常を惹起する遺伝子異常や環境因子について解説する。
血液中のブドウ糖は、インスリン分泌細胞の細胞表面に発現するGLUT2というトランスポーター(運び屋)によって細胞の中に取込まれる。

1.細胞内に取込まれたブドウ糖はグルコキナーゼなどの解糖系酵素で代謝、分解されミトコンドリアなどでATPエネルギーを産生。
2.産生されたATPエネルギーは、CAMP経路などを経て、インスリン合成を刺激細胞内のプロインスリン(インスリンの前駆体)が産生。
3.一方、ATPによりATP依存性Kチャンネルを閉鎖し細胞膜が脱分極する。 その結果電位依存性カルシウムチャンネルが活性化し細胞内へカルシウムが流入する。
4.細胞内カルシウム増加により合成されたプロインスリン粒子がを細胞外に放出される。 その際、プロインスリンはインスリンとCペプチドに分離され血中に分泌される。
インスリン分泌障害のメカニズム
糖尿病の場合は、上記のブドウ糖が細胞内で代謝される過程、ATP産生の過程、K依存性チャンネルの異常など、各ステップでの障害が考えられている。

4.インスリン分泌に関連する遺伝子異常

1.グルコキナーゼ遺伝子の異常
2.HNF4α遺伝子異常
I3.PF-1遺伝子異常
4.HNF1β遺伝子異常
5.ミトコンドリア遺伝子の異常
6.インスリン遺伝子の異常
7.アミリン
しかし現在まで明らかになっている遺伝子異常による糖尿病はの5%弱にすぎない)

5.インスリン分泌障害を引き起こす環境因子 糖毒性(glucose toxicity)

高血糖がインスリン分泌障害を引きおこすとする仮説

高血糖
膵B細胞におけるグルコース感受性の増加
インスリンの過剰分泌
B細胞におけるインスリン含有量の低下
グルコースポテンシエーションの障害 インスリン分泌の低下

グルコースポンテシエーション:グルコース存在下で、アルギニンなどグルコース以外のインスリン分泌刺激物質のインスリン分泌刺激が増強する効果
臨床的には空腹時血糖が140 mg/dl程度に上昇すればすでに糖毒性が存在し、インスリン分泌が障害されはじめさらなる高血糖につながる悪循環が始まると考えられている。

6.インスリン分泌障害を引き起こす環境因子 脂肪毒性(lipotoxicity)

長期間にわたる多量の脂肪酸の存在下では、膵B細胞はグルコースによるインスリン分泌が障害されることも知られている。
ラットの実験でも高脂肪食にて飼育した場合、血中脂肪酸の上昇に伴い、ラ氏島内の中性脂肪含有量が上昇し、インスリン基礎分泌量は上昇した(これはグルコースに対する感受性の亢進を意味する)一方でグルコースに対するインスリン分泌は障害されることが観察されている。

7.インスリン作用のメカニズム

1.インスリンが肝臓や筋肉の細胞に作用するにはまず細胞表面のインスリンレセプターに結合する。
2.インスリンがレセプターに結合するとレセプターの下に結合した蛋白(IRS-1など)が次々と活性化しその信号を伝えて行く。
3.この信号でトランスポーター(GLUT4)が活性化しブドウ糖を細胞外から細胞内へと移送する。
また、取り込んだブドウ糖からグリコーゲンを合成し貯蔵したりエネルギーとして燃焼させる。

8.インスリン作用の障害(インスリン抵抗性)のメカニズム

現在、インスリン作用に関する遺伝子異常は、
インスリン受容体(レセプター)遺伝子
そのほかに、GLUT4に関連する遺伝子などもその候補の一つと考えられている。

インスリン抵抗性のメカニズムには以下の因子が考えられている
1.脂肪酸 (FFA)がGLUT4の発現を抑制
2.高血糖が細胞内グルコサミン濃度を上昇されることにおりGLUT4の発現を抑制する
3.脂肪細胞から放出されたTNFαがインスリンレセプター下のチロシンキナーゼ活性を抑制、またGLUT4の活性にも抑制効果を示す

9.糖尿病の自然歴


糖尿病の臨床的発症に先立つインスリン抵抗性の存在
(インスリン抵抗性と分泌不全、卵とニワトリの関係?)
糖尿病と診断された方の過去の検診のデータをさかのぼって検討したところ、空腹時血糖が上昇する10年も前から空腹時インスリン値が上昇し、インスリンの抵抗性が糖尿病の発症に先行しているのが認められる。
このような例は肥満をともなった糖尿病患者に多く見られる。欧米ではこのタイプの経過をたどる肥満糖尿病が多いが、日本人においては、インスリン分泌不全が優位の比較的やせ型の2型糖尿病が多かったが最近は肥満糖尿病も増加している。
また、これらインスリン抵抗性が引き起こされる病因として内臓脂肪の存在が最近注目を集めている。 この脂肪細胞から分泌される様々な因子を総称してアデポサイトカインとよび、インスリン抵抗性や直接動脈硬化の促進に関与すると考えられている。