糖尿病合併症の予防

UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)

英国において、インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)を対象に種々の治療法を割り付け、10年間にわたり治療し、その間の糖尿病合併症の進展、糖尿病に関連する死亡率などについて、血糖コントロールの良否、糖尿病治療法別に詳細に検討した研究。対象:未治療のNIDDM患者 4209名研究1:対象のうち3867名(空腹時血糖108〜270mg/dl)を3ヶ月間食事療法を行い、その後無作為に以下のように通常の緩やかな治療群と厳格に治療する群に分け、10年後の糖尿病合併症の発症、進展率を比較する。

通常の緩やかな治療群
1138名
(食事療法単独で治療開始)

厳格な治療群
2729名
(薬物療法で治療開始)

食事療法群
436名

 SU剤群 
370名

インスリン群
259名

メトホルミン群
73名

SU剤群
1573名

インスリン群
1156名

治療方針
基本的には食事療法でいくが、
空腹時血糖 270mg/dl以上
または高血糖の症状出現時に薬物療法を追加する

メトホルミン追加
268名

インスリン追加
339名

  SU単独  
966名

治療方針
空腹時血糖108mg/dl以下を目標

10年間のHbA1c
中央値 7.9%

10年間のHbA1c
中央値 7.0%

体重 2.5kg増加

体重 4.2から6.5kg増加

HbA1cが7.9%の緩やか治療群に比べHbA1c7.0%の厳格治療群における以下の合併症イベントの発症率はそれぞれ有意に低値を示した。
10年間の糖尿病に関連した死亡 -10%
心筋梗塞発生率        -16%
細血管合併症の進展      -25%
研究2:肥満NIDDMを対象に食事療法、メトフォルミン、SU剤療法の糖尿病合併症の進展、糖尿病関連死亡率への影響について10年間の追跡研究
対象:1704名の肥満NIDDM患者(FBS108〜270mg/dl)

753名

951名

食事療法群
411名

メトフォルミン群
342名

クロルプロパミド群
265名

グリベンクラミド群
277名

インスリン群
409名

HbA1c
中央値
8.0%

HbA1c
中央値
7.4%

 

メトフォルミン群では食事療法群にくらべ10年後の糖尿病関連の死亡は42%減少した
糖尿病臨床的エンドポイントに至る危険性は32%減少した。
UKPDSのまとめ
HbA1cの改善は糖尿病合併症の発症・進展を抑える
UKPDS2.gif
UKPDS1.gif
さらにこの試験が終了後も観察研究は継続されました(post-trial monitoring)
試験終了後、両群のHbA1cの差はなくなってしましました。
UKPDSPTM1.jpg
にもかからず元強化療法群ではすべての合併症を含め9 % (p<0.05) 抑制、細小血管障害に限ると24% (p<0.01)もリスクの低下が認められました。 また「心筋梗塞」に対しでも15% (p<0.02) の, 全死亡率についても13% (p<0.01) のリスク低下を認められました。 ukpdsptm2.jpg

糖尿病のコントロールと合併症に関する研究DCCT/EDIC

米国で行われた1型糖尿病患者を対象にした血糖コントロールと合併症進展に関する大規模スタディ
対象は糖尿病早期腎症を有しない1型糖尿病患者1441 例を対象に1日1-2回のインスリンを投与する従来療法群と,1日3回以上のインスリン注射を施行する強化療法群に分け,平均6.5年間の観察期間中における糖尿病血管合併症の発症・進展の程度を調査しました。
結果は、強化療法群(HbA1c7%以下)は従来療法群(HbA1c9%)の発症危険率を76%低下、網膜症の悪化は54% 抑制、早期腎症の発症を39%,顕性腎症の発症を54% ,神経障害の発症を60% それぞれ抑制できました。そして血糖コントロールを正常に近づければ近づけるほど合併症が低減されることが明らかになりました。一方,大血管症(心筋梗塞、脳梗塞)については残念ながら両群に差は認められなかったという結果でした。
それに引き続くEDICでは,1341例を対象とし、DCCT 時に従来療法であったものも強化療法に切り替え、さらに数年治療を継続,合併症の進展度を当初より強化療法群と対比しながら追跡調査しました。
11年後の試験終了時で両群聞の平均HbAlc 値はそれぞれ8% と差はなくなっていました,早期からの強化療法による腎症、網膜症、神経障害の合併症の抑制効果が持続しただけでなく、当初差がなかった大血管障害の発症(非致死性心筋梗塞,または脳卒中,心血管死など)リスクは従来療法群に比し42%も抑制されていました。 糖尿病早期にしっかり、厳格に血糖をコントロールすることが腎症、網膜症の発症をその後も抑制し、また長期にわたり大血管障害のリスクを抑えることにつながることが明らかになりました。
UKPDSでも同じような効果が認められており これらをレガシーエフェクト(遺産効果)、メタボリックメモリー(代謝記憶)と呼ぶようになりました。 

日本の熊本スタディ

対象:日本人のインスリン非依存型糖尿病 110人
デザイン:網膜症と腎症を中心に、
合併症のない人に合併症がでるか?(1次予防群)
軽症の合併症を持つ人が合併症が進まないか(2次予防群)を6年間にわたり追跡した。
対比:強化療法(頻回インスリン注射)vs 従来治療(インスリン1−2回注射)強化療法ではHbA1c<6.5%、空腹時血糖<110mg/dl、食後2時間<180mg/dl)のコントロールを維持するよう努めた。

 

強化療法

通常療法

網膜症の出現(1次予防)


7.7%

32%

網膜症の悪化(2次予防)


19.2%

44%

腎症の出現(1次予防)


7.7%

28%

腎症の悪化(2次予防)


11.5%

32%

腎症は尿中微量アルブミン排泄量で判定
kumamoto.jpg
結論:インスリン非依存型糖尿病でも頻回インスリン注射で血糖コントロールをできる限り正常に近づけることが合併症の引き起こさないということが判明した。
糖尿病合併症治療薬についての大規模多施設臨床研究報告
日本ではまだ未承認であるが、欧米では糖尿病合併症の治療薬であるAGE阻害薬(Pimagedine)の糖尿病性腎症の治療に関する研究が行われており、その研究結果の一部が報告されている。

厳格血糖コントロールへの疑問 ACCORD試験

ACCORD 試験は2 型糖尿病で心血管病のハイリスクの患者10251名を対象とし、 HbAlc < 6%(日本の基準なら5.6%)を目指す強化療法群と7.0% 〜7.9% (6.6〜7.5%)を目指す従来療法群に分け,非致死性心筋梗塞・脳卒中・心血管死の発症率を比較した大規模試験です。 .試験開始時のHbAlcの中央値は8.1(7.7)%であったが, 1 年後には強化療法群でHbAlc6.4(6.1)%,従来療法群で7.4(7)%となりました。平均観察期間は5 年の予定であったが,死亡率が1000人・年あたり従来療法群11に対して強化療法群14 と有意に増加していることが判明し, 3 年半の時点で中止となりました。 その結果は 厳格な血糖コントロールでは 大血管障害は抑制できず 重症低血糖が増加 体重増加 逆に総死亡率が増加するというものでした 但し,対象とした糖尿病は,罹病歴が長い、すでに合併症を有する症例やハイリスク症例であったことから、すでに合併症がでている罹病期間の長い糖尿病をHbA1cを指標として性急にさげるということは危険であるということでしょう どこまでHbA1cをさげるかということ以上にそのように血糖を改善させるかということが重要と思われます。