糖尿病の診断・検査

1.糖尿病の診断

2010年に10年ぶりに糖尿病の診断の基準が新しくなりました。以前は血糖値が空腹時(前夜から絶食して朝食前に測る)126mg/dl以上,随時(食後など、いつ測った血糖値でもOK)200mg/dlまたは 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTTと略します、75gブドウ糖のはいった甘い試験用のサイダーを一気飲みをしてもらい2時間後に採血します)2時間値200mg/dl以上であれば糖尿病と考えいいのですが、正式に糖尿病と診断するためには1回だけの検査ではだめで、別の日にも血糖値をはかり、2回連続で血糖値が高くないと糖尿病とは診断できませんでした。 ただし、診察の結果、糖尿病の症状のある場合は、HbA1cが6.5%以上であれば1回で糖尿病と診断できるということでした。 今回どこが大きく変わったのか? 一言でいうとHbA1c (ヘモグロビンエーワンシー)を正式に糖尿病の診断に取り入れたことです。血糖と同時にHbA1cをはかりそれが6.5%以上であればその場で糖尿病と診断し治療を開始することになりました。なぜ6.5%以上なのか、それは代表的な糖尿病合併症である網膜症がHbA1cが6.5%以上から発生率が上昇すること、HbA1cと血糖値の関係を調べてみると空腹時血糖126mg/dl、75gOGTTの2時間値200mg/dlが、HbA1cでは6.5%に相当したころから決まりました。
血糖値の高さが以下の基準を満たす場合にその日に糖尿病と診断します。
1腹時血糖値が126mg/dl以上 または 随時血糖値が200mg/dl以上
2同日に測定したヘモグロビンA1cが6.5%以上
75g経口糖負荷試験にて以下の条件を満たすとき(静脈血漿)

0分値 2時間値
糖尿病型 126mg/dl以上 または 200mg/dl以上
正常型 110mg/dl未満 かつ 140mg/dl未満

上記のいずれの満たさない場合に境界型糖尿病型とする。
境界型糖尿病型から糖尿病に移行することが多いので糖尿病に準じて治療、経過観察をする必要ある。
健康診断や人間ドックで境界型糖尿病を指摘された場合は要注意です。指摘を受けたその時点では問題なくてもいずれ糖尿病へ進展する可能性も高く、境界型と診断された場合は、早期から食事療法や運動療法を通じて糖尿病の危険因子を取り除くようにしていくようにしましょう。

☆H24より、HbA1cが国際標準値になりました。(以前より0.4%高くなっています)

2.血糖コントロールの指標

ヘモグロビンA1c(HbA1c) =グリコA1c
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ヘモグロビンA1c(HBA1c)はグリコヘモグロビンともいい、酸素を運ぶ赤血球(血液の赤い成分)を構成するヘモグロビン分子(たんぱく質)のアミノ酸に血液中のブドウ糖(グルコース)が反応し結合したものを言います このような反応を糖化、グリケーションと呼び、正常血糖値の範囲では4.8%から6.2%の値となります。この反応は血糖値が高いほどおこり、HbA1cは赤血球寿命が約90日であることから、採血した日からさかのぼってだいたい過去2ヶ月間の平均血糖値と相関することが知られています。  HbA1cは精度の高い測定法で、糖尿病の診断、治療をしていく上で最も重要な指標としてもちいられています。 ただ腎臓や腎臓が悪い場合、貧血がある場合などはその値が実際より低めにでたり、高めになったりすることがあります。
グリコアルブミン
中期的な糖尿病コントロール状態の指標で、過去1〜2カ週間の血糖コントロールの状態(血糖値の平均)を反映します。血液中のアルブミンというタンパク質に糖が非酵素的に結合したものです。HbA1cとおなじメカニズムです。健康人ではおおむね16%以下です。
現在は日本赤十字の献血の際に測定し献血していただいた人に報告がいくようになっています。献血された際にはぜひその値に注目してください、
尿糖
ずいぶんと以前は糖尿病診断の検査にも用いられましたが、現在はあまり重要視されません。尿糖は血糖値が160〜200mg/dlに上昇しないと出現しません。 老人になるとその閾値はだんだん上昇し尿糖が出にくくなる傾向にあります。
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3.インスリン分泌能力の指標

血中インスリン値(IRI)
空腹時のインスリン値は、インスリン分泌能力よりもインスリン抵抗性の指標となります。抵抗性が強いほどインスリン分泌が代償性に亢進するからです。空腹時インスリン値が10U/ml以上の場合、インスリン抵抗性の存在が疑われます。インスリンの分泌能力を見るには糖負荷試験やグルカゴン負荷試験に対する反応性をみることが必要です。
インスリン治療中の患者さんの場合は、打ったインスリンなのか自分の膵臓から分泌されたインスリンなのか区別できないので測定しても検査結果はあまり意味がありません。その場合は次に述べるC-ペプチドを用います
血中・尿中C-ペプチド値(CPR)
膵臓にあるランゲルハンス氏島にあるβ細胞からインスリンが分泌されるときにでるインスリン分子の切れ端。インスリン分子が生成されるときの足場のようなもので特別な作用はありません。しかし、インスリン分子一個につきC-ペプチドも一個放出されるので、これを測定することによりインスリン治療中の患者においてもインスリン分泌能力を推測できるすぐれものでもあります。これは尿中に排泄されるので尿中のC-ペプチドを測定することによりインスリンの分泌量を推し量ることができます。

4.糖尿病合併症の指標

尿中微量アルブミン量
高血糖による腎臓の障害の指標、早期から尿に血液中の蛋白の代表であるアルブミンがごく少量尿中に排泄されます。従来の尿検査ではとらえられなかったごく早期の腎症の指標です。

5.治療の目標

糖尿病の治療目標
糖尿病の治療の目標は血糖値を下げることではありません。もちろん血糖値を下げることは大切ですが、最終的な目標としては、糖尿病によって引き起こされる合併症の予防や進展を阻止をし、健康な人と同様の健康寿命をたもつことです。 糖尿病合併症には、まず慢性の高血糖による糖尿病三大合併症(網膜症,腎症,神経障害の細小血管障害:ミクロアンギオパチー)があり、これら合併症の予防のためにHbA1c,空腹時血糖の目標値が決められています。
糖尿病であっても良好な血糖コントロール状態であれば、合併症は進行せず健康な状態が維持できるわけです。糖尿病は糖尿病体質のうえに多くの危険因子が重なり発症します。体質そのものを変えることは現時点ではくの場なn困難ですが、食事、運動療法などによりライフスタイルを改善し危険因子を消去できれば高血糖状態は改善

治療目標は最終的には6%を達成したいものです。 また糖尿病を早く見つけ、より早期から血糖コントロールをしっかりしておくと、高血糖を放置してから治療を開始した人にくらべ、後々も糖尿病の合併症が進行しにくいという「遺産効果:レガシー効果」も報告されています。糖尿病も早期発見、早期治療が大切なのです。
ただし、最近、食事や運動療法が不十分なまま薬物療法で無理矢理さげようとすると低血糖が頻発したり体重増加が認めれ、このためにか、かえって死亡率が上昇したという研究報告がありました。急がず、慌てず、ゆっくり慎重に血糖値をよくすることが大切です。患者さんの状況を見て、その人その人にあわせた目標を設定します。

そこで2013年熊本市において開催された日本糖尿病学会で熊本宣言が採択されました

糖尿病合併症を予防し健康寿命を延ばすためには、まずHbA1cを指標に7%未満を目指しましょう というものです

熊本宣言

と同時に7%達成が困難な場合、例えばすでに重症の糖尿病合併症がある方、すでに脳梗塞や心筋梗塞など動脈硬化性の病気が進行している方、進行癌がある方、余命の少ない方、低血糖を起こす危険性が高い方などは無理せずまずは8%を目指しましょうというメッセージも出ました。

 

治療目標

6.その他の指標

糖尿病合併症のうち大血管障害(マクロアンギオパチー;脳梗塞や心筋梗塞など動脈硬化性疾患)の増加も大きな問題です。これを予防するためにはHbA1cを下げるだけでは不十分であり、食後2時間値の血糖をあげないことも大切です。さらに血糖以上に血圧や脂質などのコントロールも重要で下記の治療目標があります。

LDLコレステロール値 (120mg/dl以下)
HDLコレステロール値(40mg/dl以上)
中性脂肪値 (150mg/dl以下)
血圧 (130/80mmHg以下)

以下の項目も陰性であること。
尿蛋白  (腎臓の機能低下の目印)
尿ケトン体(脂肪が燃焼した際に出てくる廃棄物)